日本皮膚科学会では「増悪・寛解を繰り返す、瘙痒のある湿疹を主病変とする疾患であり、患者の多くはアトピー素因を持つ」と定義しています。
その特徴は(i)強いかゆみ、(ii)年齢により特徴的な分布を呈する左右対称性の湿疹病変、(iii)乳児では2ヶ月以上、その他では6ヶ月以上にわたり、改善と再燃を繰り返す慢性病変です。
アトピー素因とはアレルギー疾患の既往歴や家族歴、血液中のIgE抗体の上昇をさします。もともとは乳幼児期から小児期をへて成人になると寛解することが多い疾患でしたが、近年では成人のアトピー性皮膚炎が増加しています。
いずれの年代においても強い掻痒感を特徴とします。乳幼児期では顔面から頭部に表面のジクジク(湿潤)するような紅斑を認めます。小児期では皮膚は全体に乾燥し蒼白を呈し、特に頚部、腋窩、肘窩、膝窩に掻き傷(掻破痕)が顕著になります。褐色の色素沈着をともない、湿疹の慢性化により皮膚は硬化(苔癬化)を認めることもあります。成人期では小児期と同様の病変から痒疹結節という、かゆみの強い隆起した発疹が多発する場合もあります。顔面の症状が強いと、白内障などの合併症を起こすことがあります。強いかゆみのため、夜間の不眠や日中の集中力の低下などの原因となります。
原因は完全には解明されていません。(i)皮膚の機能異常として発汗異常、皮膚のバリア機能の異常、皮膚血管の反応の異常などが考えられています。皮膚の天然保湿因子の成分であるフィラグリンというタンパク質の遺伝子の変異が、日本人のアトピー性皮膚炎患者では約30%に認められます。これらの患者ではフィラグリンの産生が低下し、バリア機能が減弱すると考えられます。(ii)免疫学的要因としてアレルギー反応を惹起しやすい免疫状態にあると考えられています。(iii)外的要因としてはダニ、ホコリ、細菌やカビ、発汗、精神的ストレスなど様々な外的刺激が増悪の要因と考えられます。
尋常性乾癬や皮膚リンパ腫など他の皮膚疾患との鑑別を要する場合には、皮膚生検を行う場合があります。血液検査では血液中のIgE値の測定を行うことがあります。最近は血液中のTARCというタンパクの値が皮膚症状をよく反映するため、病勢の把握のための指標として用いられます。
アトピー性皮膚炎の治療目標は「症状がないか、あっても軽微で、日常生活に支障がなく、薬物療法もあまり必要としない状態に達し、その状態を維持すること」です。治療の3本柱は(i)保湿剤によるスキンケア、(ii)増悪因子の除去、(iii)薬物療法になります。薬物療法では主に外用ステロイドを使用します。外用ステロイドは正しく使用し、症状を上手にコントロールできれば全身および局所の副作用を減らし、安全に使用できる薬剤です。また、ステロイド以外にはタクロリムス軟膏という免疫調整剤の軟膏を用いることもあります。全身療法としては抗ヒスタミン剤の内服、短期的なステロイドやシクロスポリンの内服、紫外線照射療法などを行います。平成30年4月よりデュピルマブという注射薬が中等症から重症のアトピー性皮膚炎患者の治療として使われるようになりました。この薬剤はアトピー性皮膚炎に関与するインターロイキン4とインターロイキン13という2種類のサイトカインというタンパクの作用を阻害することで、これまでの治療に難治であったアトピー性皮膚炎患者に高い治療効果を示しています。